NISAとiDeCoはどちらも国が推奨している投資の非課税制度です。それだけを聞けば、「何が違うの?」と思う人も多いと思いますが、実際にはNISAとiDeCoは目的もかなり異なります。
NISAは投資優遇の意味合いが強く、iDeCoは年金の意味合いが強い仕組みです。特徴が違うのでそれぞれの内容を理解して利用しましょう。
この記事ではNISAとiDeCoの併用や、利用する場合の注意点などについて解説します。
NISAとiDeCoは併用できる?
結論としては、NISAとiDeCoの併用は可能です。冒頭でも述べた通り、NISAとiDeCoは目的が異なる制度です。併用は可能ですが、特にiDeCoは加入者の特徴により利用できる内容が異なるのできっちりと理解しておきましょう。
NISAは少額投資非課税制度とも呼ばれ、20歳以上(成人年齢引き下げにより2023年1月以降は18歳以上)が利用可能な制度です。一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAの3種類があります。
iDeCoは個人型確定拠出年金でその名の通り私的年金制度であり、加入も任意です。会社員、自営業、専業主婦など(国民年金の第何号被保険者か)により加入区分が分かれており、毎月拠出できる金額が変わってきます。
NISAとiDeCo それぞれの特徴やメリット・デメリット
NISAとiDeCoの特徴をもう少し詳しく解説していきます。NISAについては、一般NISAとつみたてNISAをそれぞれ説明します。
一般NISAの特徴は?
一般NISAはNISAの中でも比較的短期的な運用に向いている制度です。国内株式はもちろん、海外株式などに投資できる証券会社もあり、投資可能な商品が多い点についてはiDeCoやつみたてNISAよりも投資しやすいといえます。
年間の新規非課税投資枠は120万円ですが、投資枠を使い切らなかった場合は翌年に繰越はできないので注意が必要です。
利用可能者 | 日本に居住している20歳以上の人 ※2023年1月より18歳以上に変更 |
---|---|
非課税対象 | 株式や投資信託の配当金・分配金や譲渡益 |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年120万円 |
非課税保有期間 | 最長5年間 |
現在の一般NISAの概要はこのようになっています。株式の運用益が非課税になり、その非課税期間は最長5年間です。5年間の間であれば売却した時の課税部分(20.315%)が非課税になるため、運用のリターンが大きくなります。

出典:金融庁
一般NISAで非課税期間の5年間を超える場合、次の3つのから今後どうするかを決めます
- ロールオーバーする
- 課税口座に移管する
- 売却する

出典:金融庁
ロールオーバーとは
ロールオーバーとは翌年の投資枠を再利用することです。この場合、翌年利用できる新規投資枠を使ってさらに非課税期間を5年間延長することができます。
翌年の新規非課税投資枠(120万円)以下をロールーオーバーする場合、残りの金額は新規投資枠として利用可能です。

出典:金融庁
購入した銘柄が値上がりしていて、120万円を超えている場合でもロールオーバーは可能です。その場合、翌年の非課税投資枠は使い切ることになります。
課税口座に移管する場合の注意点
課税口座に移管する場合は、取得価格が更新されることを覚えておいてください。
具体的に言うと、120万円で購入した銘柄が150万円まで上昇したタイミングで5年間を迎え、課税口座へ移動した場合、取得価格が150万円となります。つまり、150万円からの上昇分が課税対象となります。

出典:金融庁
仮に購入時点よりも5年後に値下がりしていた場合には注意が必要です。

出典:金融庁
通常であれば、保有期間中に含み損がでていても、最終的な課税は購入時からの差分となりますが、NISA口座では取得価格が更新されるため、課税部分が大きくなってしまう可能性があります。これはNISAを利用することによって生じるデメリットです。
新NISAの概要
2024年から一般NISAは新しい制度に変わり、現在の一般NISAとつみたてNISAをあわせたような仕組みになります。
具体的には非課税投資枠が122万円になり、20万円分の積立投資枠と102万円分の今までと同じ投資枠の2階建てに変わります。
制度開始 | 2024年1月から |
---|---|
非課税保有期間 | 最長5年間 |
非課税投資枠 | 2階部分:102万円 1階部分:20万円 |
投資可能商品 | 2階部分:上場株式・ETF・REIT等(一般NISAと同様) 1階部分:投資信託等(つみたてNISAと同様) |
詳細は金融庁の新しいNISAの概要をご確認ください。
つみたてNISAの特徴は?
つみたてNISAは一般NISAよりも長期投資に適した制度です。
利用可能者 | 日本に居住している20歳以上の人 ※2023年1月より18歳以上に変更 |
---|---|
非課税対象 | 対象投資信託の配当金・分配金や譲渡益 |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年40万円 |
非課税保有期間 | 最長20年間 |
毎年の新規非課税投資枠は40万円ですが、保有期間が最長で20年間となります。投資対象商品は一定の条件を満たした投資信託です。
つみたてNISA対象商品の特徴 |
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非課税保有期間が20年間であるつみたてNISAはロールオーバーはできません。また、20年が終了して課税口座へ移管するときの注意点はNISA口座と同様です。
iDeCoの特徴は?
iDeCoは個人型確定拠出年金なので元本保証商品が準備されていることもあり、比較的リスクが低い商品がそろっています。運用益が非課税になる点についてはNISAと同様ですが、掛金が全額所得控除されるメリットがあります。
利用可能者 | 原則20歳~65歳未満の人 |
---|---|
対象商品 | 投資信託や預貯金など |
非課税投資枠 | 加入者による |
加入者の条件や、加入者による非課税投資枠の詳細についてはこちらをご覧ください。
iDeCoもNISAと同様に拠出する金額や商品を自分で選ぶことになります。iDeCoの拠出金変更は年に1回しかできないなど、柔軟な変更が難しい仕組みなので注意してください。
iDeCoの最大のメリットともいえるのが、拠出金額が全額所得控除されることです。仮に所得税と住民税がそれぞれ10%とした場合、掛金が月2万円であれば、年間で4.8万円税金を軽減できます。そのうえ運用益が非課税になるため、さらにリターンが大きくなります。
iDeCoは年金制度であるらめ、原則60歳まで引き出しすることができません。単純にデメリットとは言えませんが、引き出したいときに引き出せないことは認識しておきましょう。
それぞれの違いを比較
一般NISA、つみたてNISA、iDeCoの違いを下の表にまとめました。
特に覚えておくべきポイントは以下の点です。
一般NISA | つみたてNISA | iDeCo | |
---|---|---|---|
利用可能者 | 20歳以上の人 | 20歳以上の人 | 20歳~65歳の人 |
年間非課税投資枠 | 120万円 | 40万円 | 14.4万円~81.6万円 ※加入者により異なる |
非課税保有期間 | 5年間 | 20年間 | 最長75歳から受給可能 |
対象商品 | 株式・投資信託・REIT等 | 一定の投資信託 | 投資信託・預貯金 |
非課税対象 | 分配金や運用益 | 分配金や運用益 |
|
引き出し | いつでも可 | いつでも可 | 原則60歳以降(受給開始は75歳まで繰り下げ可能) |
その他 | ロールオーバー可 | ロールオーバー不可 | NISAとの併用可能 |
NISAとiDeCoは併用すべき?
NISAとiDeCoは併用可能です。資金が豊富にある方はそれぞれのメリットを活かすことができるので併用するほうがおすすめです。
どちらか一方を選ぶのであれば、金額変更が簡単で引き出しも可能なNISA口座のほうが使い勝手が良いと思います。
とはいえ、必ずNISAを選ぶのが正解ということではありませんので、ここではNISAとiDeCoの併用に向いている人や、どちらかを優先したほうがいい人を解説していきます。
NISAとiDeCoの併用に向いている人、いない人
NISAとiDeCoを併用したほうがいい人はこのような人です。
まず前提としては、NISAとiDeCoの投資枠を利用でき、かつ生活にも困らない程度お金の余裕がある人になります。特にiDeCoに関しては、原則60歳までは引き出すことができないので注意が必要です。
投資資金を引き出す予定のない人というのも同じ理由です。つみたてNISAやiDeCoは長期投資前提となることを認識しておきましょう。
少し違う観点では自営業などのiDeCoの拠出金を大きくできる人はNISAとiDeCoを併用するメリットが大きくなります。特にiDeCoは拠出金が大きいほど運用益の非課税だけでなく拠出金の所得控除の恩恵が大きくなります。
一般的にいえば自営業の方は、会社員の方よりも厚生年金や企業年金が少ない(もしくはない)ので、老後が不安なことも多いと思います。
そんな中で無理をして投資資金を捻出して、損失が出たりすると資金面でのダメージだけでなく、心理的にも不安定になってしまいます。
(つみたて)NISAを優先したほうがいい人
NISAやつみたてNISAを優先したほうがいい人はこのような人です。
NISAとiDeCoを併用するほど投資資金が出せない人は、NISAを優先したほうが便利です。特に投資資金を引き出す可能性があるのであればなおさらNISAを選びましょう。
短期的な投資での運用益を狙うのであれば一般NISAでの投資がおすすめです。国内の個別株や海外株は高いリターンが見込める銘柄も存在します。
また、iDeCoに投資したい商品がない場合もNISAを選びましょう。iDeCoは年金的な意味合いが強いので低リスクな商品も多いです。
SBI証券や楽天証券などの大手ネット証券ではつみたてNISAの銘柄は約180本(2022年10月現在)ほどあります。一方、例えば三菱UFJ銀行のiDeCoライトコースの商品ラインナップは10本しかありません。
iDeCoを優先したほうがいい人
iDeCoを優先したい人はこのような人です。
一つは老後資金のためにお金を貯めたい人です。この記事でも説明した通り、iDeCoは原則60歳まで引き出しができません。そのため、手元にあれば使ってしまうような人でも確実に老後資金を積み立てることができます。(すべての商品で元本が保証されるわけではありません)
また、自営業者や企業年金、企業型DC(確定拠出年金)のような制度がない人にもおすすめできます。これは、一般的な会社員の方よりも老後の資金(主に厚生年金部分や退職金など)が少なくなることが予想されるためです。
このような加入条件の方はiDeCoの掛金を比較的大きくすることができるため、運用益を狙う目的と所得控除を狙う目的の2つをうまく活かすことができます。
NISAとiDeCoを併用するときの注意点
実際にNISAとiDeCoを併用するときにはどのようなことに気をつけたほうがいいのかを説明します。NISAもiDeCoも一度設定したら変えられないということはないので、併用を試してから調整するといった始め方も良いかもしれません。
少額の併用はしないほうがいい
併用時にありがちなケースとして少額で両方を運用していることがあげられます。もちろんこれが間違いというわけではありません。
ただし、個人的には少額で併用するのであれば一方に集中したほうがよいと考えています。
少額での投資になると、掛金やリターンも少なくなるためそれぞれの制度のメリットが活かしにくくなります。お伝えした通り、NISAとiDeCoは目的が異なる制度であるため、投資できる資金の中で何を優先したいのかを検討してから投資したほうがよいかもしれません。
iDeCoの掛金額変更は年1回なので注意
こちらは併用だけでなくiDeCoを利用する際の注意点となりますが、掛金の変更は年1回しかできません。(NISAは上限に達してなければ任意で変更可能)
特に多くの掛金に変更する場合は、今後の生活資金などに影響がでないか確認しておきましょう。
NISAとiDeCoに関するよくある質問
最後にNISAやiDeCoに関するよくある質問に回答していきます。
NISAやiDeCoの口座はどこがおすすめですか?
おすすめはSBI証券や楽天証券などの大手ネット証券です。まず優先すべきはコストの低さと取扱商品数の数が多いかどうかになってきます。
個人的には、取引に利用しているメインの証券会社とNISA口座は同じにしたほうが管理しやすいと思いますが、iDeCoは商品を優先して選んでいい(別の証券会社でもいい)と感じます。
下の表はNISAとiDeCoを利用するのにおすすめのネット証券です。
証券会社 | NISAおすすめ | iDeCoおすすめ | つみたてNISA本数 | iDeCo本数 |
---|---|---|---|---|
SBI証券 | 〇 | 〇 | 184本 | 36 |
楽天証券 | 〇 | 182本 | 32 | |
マネックス証券 | 〇 | 〇 | 156本 | 27 |
松井証券 | 〇 | 177本 | 40 |
※2022/10/12時点
NISAは他の取引でも利用しやすいSBI証券、楽天証券、マネックス証券といったネット証券がおすすめです。iDeCoに関しては、最も人気があるインデックスといってもよい米国インデックスのS&P500に連動するiDeCo商品がある証券会社をおすすめとしました。
iDeCoに関して調べるときには、「iDeCoナビ」というサイトが比較しやすくおすすめです。このサイトは確定拠出年金関連の特定非営利活動法人が運営されています。

出典:iDeCoナビ
投資する商品はなにがおすすめですか?
投資するのにおすすめの商品は、利用する制度と投資目的よって異なります。
一般NISAであれば、ある程度リターンを狙いに行きたいので、国内の個別株や米国株を選ぶのも1つの方法です。運用益の非課税メリットを一番活かしやすいのが一般NISAといえます。
つみたてNISAの場合は、一定の条件を満たした投資信託(金融庁に届け出済みの商品)に限られますが、その中でも信託報酬手数料が安い銘柄を選ぶ(運用期間中のコストを下げる)のが基本戦略です。
必然的に、S&P500に連動する投資信託や全世界投資(オール・カントリー)などが選択の優先候補となります。株式だけではアセットアロケーション(資産配分)の構成が偏っていると感じるのであれば、債券やREITなどの資産を組み入れた投資信託もあります。
iDeCoも運用益が非課税になるので、そのメリットは活かしたですが、老後の資金を目的とするならNISAよりもリスクを低くするほうが良いと考えます。とはいえ、運用期間中のコストを下げるという考え方はつみたてNISAと変わらないので、外国株式市場に連動するインデックスの投資信託がメインになるでしょう。
iDeCoの場合、元本保証の預貯金が商品の中にあります。預貯金はインフレに対応できず、運用益の非課税メリットも活かせませんが、株式市場全体が下落相場になりそうな場合には利用を検討してもよい商品です。iDeCoは所得控除の効果もあるので、運用益がなくても利用するメリットはあります。
資金に余裕があればNISAとiDeCoを併用しましょう
この記事では、NISAとiDeCoの特徴、それぞれを併用したほうがいい人、そうでない人などを解説しました。
この記事でお伝えしたのポイントはこのような点です。
- 資金が豊富ならNISAとiDeCoを併用したほうがいい
- リターンを狙うならNISA、老後資金を貯めたいならiDeCoがいい
- 資金が少ないならNISAがおすすめ
- 自営業者など、厚生年金や退職金が少ない人にはiDeCoがおすすめ
もちろん人によって、正解は違います。まずはNISAとiDeCoを理解するとともに、なぜ投資するのか(老後資金なのか、すぐにお金が欲しいのか)といったことを再度検討してみましょう。
NISAやiDeCoのような国の制度は知らないともったいないものが多いです。この記事を見たことでNISAやiDeCoをうまく利用して効率よく資産運用できるようになってもらえれば幸いです。