将来への不安の高まりや在宅ワークやおうち時間の増加により、「株式投資」への注目度が高まりつつあります。これまでは、一部の人たちだけのものだった株式投資ですが、今や政府が「一億総株主」という言葉を出すほど普及の波が押し寄せているような、そんな状況です。
そんな中だからこそ、「株を始めたい」と考えている方もいると思いますが、悩ましいのが「個別株と投資信託」のどちらを選べば良いのかという点ではないでしょうか?それぞれにメリットとデメリットがあるものの、大切なお金をリスクを取って増やそうとする都合上、「絶対に失敗したくない」と考えるのも当然です。
この記事では、前半部分で個別株と投資信託のメリットとデメリットをそれぞれ解説し、後半部分ではケース別にどちらがおすすめできるのかを解説していきます。株式投資初心者でもわかりやすいようまとめているので、参考にしてみてください。
株を始める前に知っておきたい個別株と投資信託の特徴
では早速、個別株と投資信託の特徴について知っていきましょう。それぞれのメリットとデメリットをまとめていきます。
個別株
まずは個別株ですが、それぞれの企業の株を個別に購入し、基本的には「安く買って高く売る」ことで継続して利益を出していきます。「株」と言えば、この個別株を指す場合が大半です。
また、国内の株だけでなく、海外の株式でも取引が可能です。とりわけ、近年は「米国株投資」が大きな注目を集めており、Google、Apple、Facebook(Meta)、AmazonのGAFAやテスラなど、誰もが知る世界的大企業への投資も選択肢の1つ。
一方で、個別株投資を始めるにはまとまった資金が必要です。もし、国内の株を売買したいなら、最低でも「100株」に買いを入れる必要があるため、人気企業の株を保有したいと思ったら、投資を始めるだけで数十万円以上の資金が求められます。
したがって、初心者が個別株投資で投資デビューするのは、少しハードルが高いかもしれません。
メリット
そんな個別株投資のメリットですが、ここでは以下の3つを取り上げていきます。
- 高いリターンが期待できる
- 投資スタイルが多様
- 売却益以外にも恩恵がある
どれも非常に大切なポイントなので、順番に解説していきます。
高いリターンが期待できる
個別株投資の最大のメリットは、「高いリターンが期待できる」点です。
多くの方は株式投資に対して「ハイリスク、ハイリターン」といったイメージを持っていると思いますが、まさしくこれは個別株投資のことを指しています。しかし、勘違いすべきでないのは、高いか安いかを単に予想するカジノの「ハイアンドロー」のような、ギャンブル的なものとは異なることです。
なぜなら、株式投資では高くなった後に「高くなり続ける」ことがあるからです。株の価格が購入時の10倍の価格まで膨れ上がることを、株式投資の世界では「テンバガー」と呼びますが、このような用語が生まれること自体が、個別株が高いリターンを見込めることを意味しています。
逆に言えば、「安くなり続けること」も当然あり得るため、高くなるのか安くなるのかという軸に加え、「いつ買うのか、いつ売るのか」といった緻密な判断も求められるため、想像以上に考えることが多いのが個別株投資の特徴です。
投資スタイルが多様
個別株投資と聞けば、いわゆる「デイトレ」と呼ばれるような、毎日毎日モニターと睨めっこしているような投資方法を連想する方が多いはずです。
しかし、実際の投資方法は極めて多様で、投資家の性格やライフスタイルに合った投資方法が選べます。一般に周知されている投資方法を以下にまとめてみました。
- 短期投資
- 数分、数日、数週間のスパンでトレード。いわゆるデイトレがこれ。
- 中期投資
- 数カ月〜数年を見越してトレード。企業や業界の動向を中期的に評価しなければいけない。
- 長期投資
- 数年、数十年、一生涯。継続して利益を生み続けられる、普遍的な企業を選ぶ。
- バリュー投資
- 安定性の高い企業に絞って投資。リスクを抑えながらコツコツと利益を積み重ねる。
- グロース投資
- 成長途上の企業に絞って投資。リスクを取ってガツガツ利益を上げる。
- 分散投資(インデックス投資)
- 複数企業に分散させて投資。市場全体の平均的な利益を取ることを目標にする。
投資を「期間」で見たときは、短期、中期、長期の3つにわけられます。言うまでもなく、トレードまでの時間が短ければ短いほどリスクとリターンは大きくなり、逆もまた然りです。「プロトレーダーを目指す」といった例外を除き、短期投資で利益をあげるのは至難の業なので、中期〜長期でじっくりいくのが王道です。
また、「銘柄」で見るとバリュー投資、グロース投資、分散投資の3つにわけられます。どれを選ぶかというよりは、「どんなバランスで選ぶか」が大切であり、安定した利益が見込める安定株と、リスクとリターンが大きい成長株をポートフォリオ(組み合わせ)の中にどう組み込むかが、個別株投資家の腕の見せ所です。
株主優待がもらえる
個別株投資のメリットで見逃せないのが「売却益以外の恩恵」です。
一般に「株」と聞けば、「安く買って高く売る」ことで売利益をあげることをイメージしがちですが、実はこれ以外にも「株主優待」という形で恩恵を受けられます。
株主優待は多くの方がご存知の通り、株主に対して提供している特典のことです。「これをプレゼントするから、ウチの株を買ってください」といった目的で存在し、例えばディズニーランドを運営するオリエンタルランドは、株主に対して「ディズニーランドとディズニーシーで使えるワンデーパス」を配布しています。
配布される枚数は上記表の通りで、100株購入すれば1枚が配布され、その後は購入すればするほど配布枚数は増えていきます。ワンデーパスが株を買うだけで貰えるなんて、非常に魅力的ですよね!
なお、オリエンタルランドの株価は、2022年6月11日の終値で「18,955円」となっています。したがって、ワンデーパスをもらえる最低購入額の100株は「1,895,500円」が必要であるため、ただ株を買うだけでは優待はもらえない点には注意しましょう。
また、優待の他にも「配当金」と呼ばれる、企業の利益を株主に還元する恩恵も存在しますが、これは個別株だけでなく投資信託にも存在します。
デメリット
メリットに続いて、個別株投資のデメリットについても知っておきましょう。
- 元本割れリスクが大きい
- 豊富な資金、知識、時間が必要
- 投資信託に負ける可能性が高い
どれも非常に大切なので、順番に解説していきます。
元本割れリスクが大きい
個別株投資と投資信託を比べると、個別株投資の方がハイリスクです。そして、多くの方が気になるのが「元本割れリスク」ですが、元本割れをする可能性は大いにあるため、「失敗する前提」で投資を始めるのが大切です。
個別株投資のリスクが大きい理由は、「リスク分散が効かないから」の一言で説明がつきます。投資の世界では、「卵は1つのカゴに盛るな」といった名言がありますが、個別株投資、とりわけ投資初心者の個別株投資は、分散させるだけの知識と資金が不足しているため、分散とは真逆の「集中」的な投資になりやすいです。
この場合、たった1つのカゴを落としてしまうだけで、中に入っている卵は全て割れてしまいます。つまり、元本割れのリスクが高まるということです。
投資で一番に注意すべきはリターンではなくリスク。これを頭に入れた上で、個別株投資に取り組みましょう。
豊富な資金、知識、時間が必要
個別株投資で最もやってはいけないのが「適当に買って、高くなったら売る」ような一貫性のない戦略です。このやり方でたまたま成功する可能性もありますが、いつかは必ず失敗し、その失敗が取り返しのつかない損害をもたらすこともあるでしょう。
こういった「個別株投資の失敗」を防ぐためには、以下の3つが必要です。
- リターンを最大化できる潤沢な資金
- 適切な銘柄を選べる豊富な知識
- 適切なタイミングでトレードできる時間的余裕
資金については、最低でも数十万円、100万円規模の開始資金は欲しいところです。小さい金額で利益を出そうとすると、どうしても「ハイリスク、ハイリターン」な銘柄に目がいってしまい、失敗の元となります。
また、今後成長していく銘柄を選ぶための知識に加え、その銘柄を適切なタイミングでトレードできる時間も求められます。
つまり、個別株投資は「求められるものが多い」投資方法です。軽い気持ちで始めるにはリスクが大きすぎるので、慎重に検討を重ねてからトレードを開始しましょう。
市場平均に負ける可能性が高い
個別株投資をする上では、「市場平均」という言葉に注意を払わなければいけません。
市場平均とは、ある株式市場の投資家全体の平均成績のことです。これを上回っていれば周りの投資家よりも優れていることを示し、逆もまた然り、といった評価ができます。
そして、もし個別株投資で利益をあげていても、「市場平均に負けている」ならば、その投資は成功とは言えないかもしれません。なぜなら、後述する投資信託の中には、「市場平均に一致するように投資ができる商品(インデックスファンド)」が存在するからです。
実際、プロの投資家や機関投資家を含む、全ての投資家の9割は「市場平均に勝てない」とも言われており、そんな中で素人が個別株投資に参入するのは無謀という見方もできます。
参考:プロ投資家の9割が市場に勝てない本当の理由 – 日経ビジネス
いずれにせよ、個別株投資は相応のリスクを孕んでいるので、この点は最大限の注意を支払いましょう。
投資信託
続いて投資信託について解説していきます。
投資信託とは「投資家が運用会社へとお金を預ける」ことで、間接的に投資を行う投資方法を指します。その歴史は古く、18世紀のオランダで「共同出資」という形で投資を行い、その利益を分配したのが投資信託の始まりです。
そして、現代の投資信託は以下のような仕組みで成立しています。
ご覧のように、「お客さま」である投資家たちが、特定の商品にいくら投資するのかを自分で決定します。Aさんは1万円、Bさんは3万円、Cさんは5万円といったように、「投資金額を自分で自由に決められる」のが個別株投資と決定的に異なる点です。
そして、投資家からお金を預かった運用会社は、これらの資金を「まとめて」運用します。肝心の投資先は、商品ごとにあらかじめ決められています。
- 国内株式
- 外国株式
- 国内債権
- 外国債権
- 不動産
基本的にはこれらの投資先が商品ごとに設定されており、投資家は自分のニーズに合った投資先を設定している商品を選んで投資を決定します。基本的には「分散投資」がコンセプトなので、個別株投資よりもリスクを減らす効果があるのもポイント。
また、絶対に知っておくべきなのが、投資信託には「アクティブファンド」「パッシブファンド」の2種類が存在する点です。
前者のアクティブファンドは、「市場平均を上回る運用成績」となるように積極的(アクティブ)な運用を行います。利益を出すためにリスクも取りに行くため、元本割れリスクも相応に存在する「ハイリスク、ハイリターン」な投資信託です。
そして、後者のパッシブファンドは、「市場平均と一致するような運用成績」となるようにリスクを抑えた消極的(パッシブ)な運用を行います。いずれも「市場平均」がキーワードになるので、自分が市場平均を上回りたいのか、それとも市場平均並で良いのかで、選ぶ商品が大きく異なります。
メリット
では、投資信託のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
- 資金、知識、時間がなくても株式運用ができる
- 許容リスクに応じて商品が選べる
- プロのトレーダーにも勝てる可能性がある
以上3つについて以下で詳しく解説していきます。
資金、知識、時間がなくても資産運用ができる
投資信託の最大のメリットは、個別株投資で求められる資金、知識、時間がなくても、資産運用ができる点にあります。それぞれの詳細を以下にまとめてみました。
- 資金
- 100円から購入可能な商品も数多く存在する。
- 知識
- プロにお任せなので専門的な知識は不要。
- 時間
- 頻繁なトレードが不要なので運用にかける時間は不要。
まず資金ですが、投資信託は投資家から預かったお金を「まとめて」運用するため、ひとりひとりの個人からまとまったお金を集める必要はありません。
例えば、任天堂の2022年6月12日の終値は「58,940円」なので、もし任天堂の株を個別株として購入したいなら、最低購入単位である「100株」から購入することになるため、最低でも5,894,000円が必要です。言うまでもなく、これはあまりにも高額で手が出ない方も多いはず。
そして、国内でも人気の銘柄であるユニクロのファーストリテイリングやディズニーランドのオリエンタルランドなどは、任天堂と同様に株価が高いため、100株単位の取引が基本となる個別株投資では購入するのが難しいです。
しかし、「国内株式に投資する」とする投資信託なら、100円購入するだけでもこれらの人気銘柄に投資できることになります。これが投資家の資金を「まとめて運用」する投資信託の大きなメリットです。
また、運用は投資のプロに任せられるため、専門的な知識、そしてトレードにかける時間は不要。一方で、プロの投資家の7割以上が市場平均に勝てないため、どれだけ優れたトレーダーや機関が提供する投資信託でも「絶対に勝てる」という保証はどこにもありません。これだけはしっかり覚えておきましょう。
許容リスクに応じて商品が選べる
投資信託は商品によってコンセプトが大きく異なるため、「リスク」に応じて商品選びが自由自在です。
もし、個別株投資の短期投資ような「ハイリスク、ハイリターン」な投資スタイルを志向するなら、市場平均を上回るように積極的に運用する「アクティブファンド」を選べばニーズを満たせます。
具体例として、国内でも人気のアクティブファンド「ひふみ投信」の運用実績を見てみましょう。
こちらのチャートでは、ひふみ投信の実績が赤色で、TOPIX(国内市場平均)が黒色で、それぞれ示されていますが、赤色のチャートが黒色のチャートを大きく上回っているのがわかります。
これは、「投資信託の運用実績が市場平均(投資家の平均)を上回っている」ことを示し、アクティブファンドが成功していることの好例です。もちろん、全てのアクティブファンドがこのような成功を収めるかと言えばそうではなく、市場平均を下回るのはもちろん、元本割れに終わる商品も無数に存在します。
一方で、リスクを抑えながらコツコツとリターンを重ねていきたいなら、市場平均に一致するように受動的に運用する「パッシブファンド」が選択肢にあがります。
ここでは例として、アメリカの上位500社の平均を示す「S&P500」という指標を取り上げます。
こちらがS&P500の登場から2022年6月13日現在に至るまでのチャートになりますが、「基本的には右肩上がり」で伸び続けていることがわかると思います。特定の企業ではなく、あくまで「アメリカの上位500社の平均」なので、基本的には伸び続けると考えるのが妥当です。
もちろん、短期的に見れば浮き沈みは存在します。特に2000年、2007年、2020年、2022年(執筆現在)に大きな下落がチャートから読み取れますが、それぞれITバブル崩壊、リーマンショック、コロナショック、ウクライナショックで大打撃を受けています。
しかし、これらの「世界を揺るがす重大な危機」に直面しても、S&P500を含むアメリカ経済は時間をかけて力強く右肩上がりを続けていき、ウクライナショック以降も成長をすると多くの投資家たちが信じています。
したがって、このS&P500に連動するように運用するパッシブファンドを投資信託として購入すれば、全米上位500社にリスクを分散させながら、アメリカ経済の恩恵を受けることができます。「リスクを抑えながらリターンを得られる」というのがパッシブファンドの真髄であり、最大のメリットです。
なお、TOPIXやS&P500、さらにはダウ平均株価やナスダックなど、市場の平均を示す指標を「指数(インデックス)」と、そしてこれら指数に連動するような投資信託を、パッシブファンドの中でも特に「インデックスファンド」と呼びます。
プロのトレーダーにも勝てる可能性がある
もし、投資素人が個別株投資に手を出した場合、短期的には運良く勝てるかもしれませんが、長期的に見ればほとんど100%の確率で損をします。現在の株式市場は「機関投資家」と呼ばれる投資のプロの集団が、あらゆるデータを活用して利益を上げようとしているため、個人投資家はおろか、素人の投資家が勝つ余地はほとんどありません。
しかし、投資信託はプロや市場平均に運用を任せるため、素人も玄人も関係ありません。お金を預けるだけで「プロ並み」の運用ができるため、素人なのにプロのトレーダーに勝てる可能性があります。
そして、忘れてはいけないのが「投資家の7割以上は市場平均に勝てない」という事実です。逆に言えば、「市場平均を買えば投資家の7割に勝てる」ことを意味するので、市場平均に連動する投資信託である「インデックスファンド」を購入するだけで、7割以上の投資家に勝る運用利益を得られます。
デメリット
続いて、投資信託のデメリットについて解説していきます。
- 手数料が取られる
- 短期的な利益が得にくい
- 投資の知識がつかない
これらの点は投資信託のデメリットとして見逃せないものなので、順番に確認していきましょう。
手数料が取られる
絶対に忘れてはいけないのが、投資信託の存在意義です。投資信託は、「お客さま」である私たち投資家が儲けるために存在しているわけではなく、「運用会社が儲ける」ために存在している「商品」です。
したがって、商品ごとに「手数料」が存在しています。代表的な投資信託の手数料を以下にまとめました。
- 購入時手数料
- 投資信託を購入する時に販売会社に支払う手数料のこと。無料の商品を「ノーロード」と呼ぶ。
- 信託報酬
- 運用や管理の対価として支払う手数料のこと。「0.5%」など、割合で決まっている。
- 信託財産留保額
- 投資信託を償還以外のタイミングで解約する時に支払う手数料のこと。
これらの手数料が「運用会社の儲け」となるため、投資信託を購入する時は必ず確認しなければいけません。魅力的な商品に見えたとしても、手数料が高くつけばその分だけ利益も減ってしまうため、注意が必要です。
そして、手数料など商品の詳細な情報が書かれているものを「目論見書(もくろみしょ)」と呼びます。この目論見書に目を通すことで失敗を防げるため、下調べに必ず活用しましょう。
短期的な利益が得にくい
投資信託は証券会社ごとに極めて多様な商品がラインナップされていますが、短期的な利益を得にくい商品が大半です。投資信託が短期投資におすすめできない具体的な理由を以下にまとめてみました。
- 短期のリターンを見込めるほどのリスクを取っていない
- 取引価格がリアルタイムで更新されない
- 「手数料負け」する
投資信託、特に投資初心者におすすめされるような投資信託は、「ローリスク、ローリターン」の商品が多いです。そして、投資における利益、リターンとは「取ったリスクの量に比例する」傾向にあるため、短期的にリターンを得ることは難しいと考えましょう。
また、個別の株式はリアルタイムで株価が変動しますが、投資信託は株価の代わりに「基準価格」と呼ばれる商品ごとの価格が、夕方から夜間のタイミングで「1日1回」公開されるのみです。加えて、購入から約定(購入の確定)までに時間がかかるため、短期のトレードには不向き、というよりも「事実上できません」。
そして何より、投資信託のバックには常に証券会社がついています。トレードすればするほど「手数料」という形で利益が証券会社に渡り、リターンはどんどん目減りしていきます。これでは「証券会社の良いお客さん」なので、投資信託で短期的な利益を期待したり、短期的なトレードをするのはやめましょう。
投資の知識がつかない
投資信託は投資のプロや指数に運用をお任せし、さらに数カ月〜数年、あるいは数十年の中長期投資が基本なので、運用中は何もやることがなく、投資の知識がつきにくいです。
一方で、個別株投資は知識なしで勝てるほど甘いものではなく、損がかさむと必然的に「リターンを出すにはどうすれば良いのか」を考えてしまうもの。この過程で投資の知識がどんどんついていき、時間と共に投資家として成長していける側面があります。
したがって、これだけ見ると「将来的に大きなリターンを出したいなら個別株投資に参入すべきなのか」と考える方もいると思います。しかし、ここに大きな落とし穴がある可能性も。
何度も繰り返している通り、現代の投資の世界は機関投資家が中心にいます。投資のプロたちが徒党を組んで莫大なリターンを得ようと日夜トレードに励んでおり、市場につぎ込むお金は個人投資家と比較にならないほど莫大です。
そこに「知識をつけた個人の個別株投資家」が参入しても、勝算は高くはならず、むしろ低くなるでしょう。
それだったら、「投資信託に全部お任せ」として、投資にかける時間を最小限にしつつ、投資信託によるリターンを享受した方が賢いという見方もできます。
いずれにせよ、「投資は知識があれば勝てる」ほど甘いものではありません。「投資のプロが、何も勉強せず投資信託をただ買ってるだけの初心者に負ける」なんてことが起こるのは日常茶飯事の世界だという事実は頭に入れておきましょう。
個別株と投資信託のどっちがおすすめ?ケース別に徹底解説
まずは個別株投資と投資信託のメリットとデメリットを解説してきましたが、ここからはケース別にどちらがおすすめなのかを解説していきます。
投資方法に迷っている方の参考になれば幸いです。
リスクを取ってガンガン稼ぎたい
先述のように、株式投資のリターンは「取ったリスクに比例する」ものです。リスクがないところにリターンは存在しないため、「リスクを取ってガンガン稼ぎたい」と考える方には、「ハイリスク、ハイリターン」な投資手法がおすすめできます。
時間と資金があるなら個別株がおすすめ
株式投資の中で最も「ハイリスク、ハイリターン」な投資方法は、個別株投資です。投資信託は「分散投資」が基本コンセプトなので、どうしても取れるリスクは少なくなり、結果的にリターンも少なくなります。
したがって、個別株投資で自分が許容できる範囲のリスクを取りながらリターンを享受していくべきですが、1つ気をつけたいのは「信用取引」についてです。
信用取引は「証券会社に現金や株式を担保としてお金を借りて株式投資を行う」ことで、簡単に言えば「借金をしてより大きなリターンを狙いに行く」ことを指します。担保として預けたものの「3.3倍」までの取引が認められており、これを上手に利用すれば少ないお金でより大きなリターンを狙いにいけるのです。
つまり、「ハイリスク、ハイリターン」をさらに煮詰めたのが信用取引ですが、当然、リスクも相応に跳ね上がります。リターンに目が眩んで信用取引に手を出すと取り返しの付かないことになりかねないため、信用取引は「リスクを取るだけの合理的な理由」がある時だけに行いましょう。
投資信託のアクティブファンドも悪くない選択肢
また、「ハイリスク、ハイリターン」な投資を志向するなら、個別株投資ではなく「投資信託のアクティブファンド」も選択肢の1つに入ります。
投資の初心者がハイリスクな個別株投資をするのは、「ハイリスク、ローリターン」になる可能性もあるため、それだったら投資のプロにリスクを取らせた方が成功確率が上がる可能性が高いからです。
特に、投資にかける時間や資金が十分にない場合は、投資信託の利用が推奨されます。運用にかける時間は不要で、自分が金額を指定して商品を購入できるのは個別株投資にはない魅力です。
NISAの活用をお忘れなく
なお、個別株投資にせよ、アクティブファンドを用いた投資信託にせよ、ハイリスク、ハイリターンな投資の利益は大きなものとなります。通常なら、この利益には20%の課税がされますが、国が押し進める制度の1つ「一般NISA」を利用すれば「年間120万円」までの運用が非課税になるので必ず活用しましょう。
一方で、注意しなければいけないのは「つみたてNISAとの併用ができない」点です。後述するように、つみたてNISAは投資初心者に非常におすすめできる制度なので、一般NISAを使うのか、それともつみたてNISAを使うのか、しっかりと検討した上で投資を行ってください。
リスクを抑えながら堅実に稼ぎたい
投資初心者の多くは「リスクを抑えて堅実に稼ぎたい」と考えていると思います。
このように、リターンよりもリスクを優先的に考えられるのは、株式投資で最も大切なことの1つなので、今後も絶対に忘れないでください。
以下で、リスクを抑えながら稼ぎたい方におすすめの投資方法を解説していきます。
リスクを気にするなら「インデックスファンド」一択
結論から言えば、リスクを気にするなら「投資信託のインデックスファンド」がおすすめです。
株式投資では未来を予測する力が求められます。極論を言えば、1分後に上がるか、下がるかの2択に常に正解し続ければ、一瞬で億万長者になれる世界です。
とは言うものの、これができれば苦労はしません。未来のことがわからないからこそリスクが生まれ、だからこそリターンが生まれるのもまた、投資の本質です。
しかし、実は時間を1分から1日、1年、10年、20年、30年とどんどん伸ばしていくと、未来のことが少しだけ予測できるようになります。ここでも例として、全米上位500社平均の株価を示すアメリカの代表的な株価指数「S&P500」を取り上げます。
こちらがS&P500の1988年1月1日から、執筆現在の2022年6月13日に至るまでのチャートですが、数年から十数年のスパンで、「世界を揺るがす重大な危機」に直面し、大幅な下落を経験していることがわかります。
いずれの下落でも、資産の数十%が消し飛ぶ程度のショックを投資家に与えるため、投資のリスクや恐ろしさが理解できるはずです。
しかし、一方で「所々に大幅な下落はあるものの、全体として右肩上がり」であることもまた事実です。実際のところ、1988年から2020年に至るまで、米国株式に長期的に投資を続けていれば「20倍」のリターンを受け取ることができています。
参考:歴史から学ぶ、継続投資の有効性 – J.P. Morgan
つまり、少なくとも株価指数は、「短期的に見れば上がるか下がるかわからないが、長期的(15年〜20年以上)には上がる傾向にある」と言えます。未来のことが完全にわかるとはとても言えませんが、「傾向がわかる」だけでリスクは大きく減り、投資はグッとやりやすくなるはずです。
前置きが長くなりましたが、リスクを抑えた投資をしたいなら以下のポイントを押さえましょう。
- 指数に連動する投資信託「インデックスファンド」を選ぶ
- 数カ月、数年ではなく十年以上の長期投資
- 途中に大幅な下落があっても絶対に売らない(狼狽売りしない)
インデックスファンドを購入すれば、「長期的には右肩上がりになる」という恩恵を受けられます。最近では、先に示したアメリカの「S&P500」に連動するインデックスファンドはもちろん、先進国や全世界の株価指数に連動するインデックスファンドも人気です。
これを徹底するだけで、「7割以上の投資家よりも良い成績」を出すことができます。知識や経験の有無は一切関係なく、「ただ買って、ただ保有し続ける」だけで良いので万人におすすめできる手法です。
「つみたてNISA」でインデックスファンドを運用しよう
このように、インデックスファンドはリスクを抑えながらリターンを得られる投資初心者におすすめの投資方法ですが、もしこの投資方法を実践する場合は「つみたてNISAで運用する」ことを忘れないでください。
投資熱が高まってきている昨今、「つみたてNISA」について聞いたことがある方も多いはずです。概要は以下の引用文を参考にしてください。
つみたてNISAとは、特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度です(2018年1月からスタート)。
つみたてNISAの対象商品は、手数料が低水準、頻繁に分配金が支払われないなど、長期・積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されており、投資初心者をはじめ幅広い年代の方にとって利用しやすい仕組みとなっています
上記の要点をまとめてみました。
- 本来運用益に20%かかる税金が非課税に
- 長期・積立・分散投資
- 国が認めたローリスクな優良商品だけが対象
ご覧のように、つみたてNISAはリスクを抑えた「長期積立分散投資」が非課税でできる国のお墨付きの投資制度です。年間40万円、運用期間は20年間と決められているため、まさに「少ない資金でコツコツ派」の方におすすめ。
とはいうものの、「毎月数万円、1年で最大40万円のローリスクな投資信託への投資でリターンなんて期待できるの?」と考えてしまう方もいるでしょう。
では、つみたてNISAを20年間続けたらどの程度の利益が出るのでしょうか?以下のシミュレーション結果をご覧ください。
毎月の積立金額 | 3万円 |
---|---|
想定利回り(年率) | 3% |
積立期間 | 20年 |
元本 | 720.0万円 |
運用リターン | 264.9万円 |
合計 | 984.9万円 |
こちらは金融庁のシミュレーションを使用し、条件は上記表のように設定しています。毎月3万円の積立投資で、想定利回りは3%。これで20年積み立てると、元本は720万円、これは当然として、リターンは264.9万円生まれ、合計で984.9万円と1,000万円にニアミスの金額になります。
これをお得と見るか、それとも物足りないと見るかは人ぞれぞれですが、少なくとも「銀行に預けておくよりは良い」でしょう。今の銀行は「お金の入れ物」としての機能しか持っておらず、インフレを考慮すると預けておくだけで損をしていきます。
なお、あらかじめ断っておくと、上記シミュレーションの想定利回りである3%は、かなり堅実な商品を購入する場合の「低く見積もった利回り」です。投資信託の標準的な利回りだとされる5%、そして上振れの7%の利回りをそれぞれ見ていきましょう。
毎月の積立金額 | 3万円 |
---|---|
想定利回り(年率) | 5% |
積立期間 | 20年 |
元本 | 720.0万円 |
運用リターン | 513.1万円 |
合計 | 1,233.1万円 |
まずこちらが標準的と言われる5%利回りのシミュレーションです。運用リターンは513.1万円、合計で1,233.1万円と、1,000万円を超えました。
毎月の積立金額 | 3万円 |
---|---|
想定利回り(年率) | 7% |
積立期間 | 20年 |
元本 | 720.0万円 |
運用リターン | 842.8万円 |
合計 | 1,562.8万円 |
そしてこちらが7%利回りのシミュレーション結果です。7%はかなりの上振れで、つみたてNISAではなかなか実現が難しいかもしれませんが、7%までくるとリターンは842.8万円と元本を超え、合計は1,562.8万円と2,000万円も見えてきます。
年利が3%から2倍程度の7%に上がるだけで、リターンは264万円から842万円と実に「3倍以上」まで膨れ上がるのが「複利」の偉大さを示していますが、毎月数万円でもつみたてNISAでコツコツ投資をしていけば、20年で1,000万円越えも夢ではないことが理解できます。
将来のために積み立てたい
株式投資を検討している方の中には、「将来のための積立」をコツコツとしていきたいと考える方も多いでしょう。
株式投資は積立期間が増えれば増えるほど、ボラリティ(株価の浮き沈み)が平均に収束しリスクが減り、リターンを見込みやすくなるという特徴を持っているため、実は短期投資よりも長期投資の方が勝算が高いです。
そして、将来のための積み立てとして、以下の2つの目的を設定している方が多いはずです。
- 教育資金
- 老後資金
それぞれ投資先として選ぶべきものが変わってくるので、順番に解説していきます。
教育資金ならつみたてNISAとジュニアNISAのW運用
教育資金としておすすめなのは、つみたてNISAとジュニアNISAをダブルで活用する方法です。
先述の通り、つみたてNISAは投資期間20年でローリスクな投資信託を非課税で、年間40万円まで運用できる制度のこと。子どもが若い時に始めれば始めるほど、最もお金がかかる大学生の時につみたてNISAで貯蓄した分が活用しやすくなるので、教育資金目的で投資をしたいなら今すぐにでも始めるべきです。
そして、ジュニアNISA、正式名称は「未成年者少額投資非課税制度」とは、国主導で行っている国民に投資を促す制度「NISA」の1つです。一般NISAやつみたてNISAと同じく「運用益が非課税になる」ため、通常20%引かれる税金がなくなる分、非常にお得な投資方法だと言えます。
ジュニアNISAを活用できる方、及び詳細を以下にまとめてみました。
制度対象者 | 日本に住んでいる未成年(口座を開設する年の1月1日現在) |
---|---|
非課税投資枠 | 年間80万円が上限 |
非課税期間 | 最長5年間 |
投資可能期間 | 2016年〜2023年 |
ご覧のように、ジュニアNISAは未成年が5年間にわたり、年間80万円を上限として非課税の投資が行える制度となっています。つみたてNISAとは異なり、こちらは投資信託だけでなく株式も投資対象です。
そして、残念ながら2023年にジュニアNISAは廃止されることが決定しているため、実は投資が行える期間はほとんど残っていません。
しかし、たとえ1年間だけだとしても、「年間80万円まで非課税で投資できる」のは魅力的。したがって、まだ2023年まで猶予があるなら、利用しない手はない制度だと言えます。
また、口座開設者はあくまで未成年の子どもなので、両親がジュニアNISAとは別に、一般NISAかつみたてNISAを利用できるのも強みです。教育資金目的でなくとも、単に非課税投資枠を増やすという理由で活用するのも良いでしょう。
老後資金ならiDeCo
教育資金とは別に、老後資金を投資で補いたいという方もいると思います。「老後2,000万円問題」などが注目されているため、老後資金を若いうちから積極的に形成していくのは極めて大切です。
そして、老後資金には「iDeCo(イデコ)」と呼ばれる制度を活用をおすすめします。
iDeCoの正式名称は「個人型確定拠出年金」のことで、年金にプラスで給付を受けられる私的年金制度のことです。積み立てられる月当たりの限度額、 及び制度の特徴を以下にまとめてみました。
- 運用可能な商品が決まっている
- 管理機関ごとに商品が決まっている。投資商品だけでなく、元本割れしない預貯金や保険商品も選択可。
- 運用益が非課税
- NISAと同様に、本来20%かかる税金が全て非課税に。
- 投資期間が年齢で決まる
- 積み立てができるのは60歳まで。早く始めれば始めるほどお得に。
- 掛け金全額が所得控除の対象に
- 「掛け金の全額」が所得控除の対象に。所得税、住民税の大きな節税になる。
- 受け取る時も税制上有利に
- 年金として分割で受け取るなら「公的年金等控除」の、一時金として受け取るなら「退職所得控除」の対象に。
- 60歳まで引き出せない
- NISAとは異なり、積み立てたお金は原則60歳まで引き出せない。
ご覧のように、iDeCoは投資的にも、税制的にも極めてメリットの大きい年金制度だと言えます。投資目的で利用するなら、それぞれの管理機関や証券会社が提供している投資信託を購入することになるため、リスクとリターンを考慮した上で商品を選びましょう。
また、元本割れしたくない方は預貯金を選ぶこともできますが、数十年という時間ではインフレにより通貨の価値は減るため、元本割れしないように預貯金を選ぶと実質的に元本割れしていきます。
また、20年を超える長期投資で適切な投資商品を選べば、元本割れをするリスクはかなり低く抑えられるので、そういう意味でも投資商品を選ぶべきです。
そして、「運用益が非課税」になる点ですが、本来20%取られてしまう税金が全て利益として入ってくるので、これだけでも利用する価値はあります。
しかも、iDeCoは60歳まで投資が可能なので、人によっては非常に長期間の投資になりやすいです。言い換えれば、大きな利益が見込める可能性が高いため、これが丸ごと非課税になることを考えると、魅力はNISAの比ではありません。
さらに、「税制上有利」になる点も見逃せないポイント。「全額所得控除」になるため、iDeCoにかけた分だけ課税される所得が減り、所得税や住民税の節税につながります。また、受け取る時にも控除が受けられるため、「積み立てているときも、受け取るときもお得」な制度です。
以上のように、iDecoは極めてメリットの大きい制度ですが、唯一にして最大のデメリットが「60歳まで引き出せない」点であり、ここが制度として似ているつみたてNISAと決定的に異なる点です。
60歳までの投資となると、どんな人にも「お金が必要な時」が回ってくるはず。そんな時に、「iDeCoに積み立てたお金があればどうにかなるのに」となってしまっては、老後が安心でも、そこまでの人生に不安が生じます。
したがって、制度を見れば確かにお得な制度ではあるものの、「人を選ぶ」部分があるのもまた事実。「引き出せなくても人生に影響がない範囲」で積み立てていきましょう。
まとめ
株式投資には個別株を運用する方法と、投資信託を購入する方法の2種類があります。
どちらもメリットとデメリットがありますが、投資をこれから始めるなら投資信託がおすすめです。現在の株式市場は投資のプロが日夜利益を上げるべくチームを組んでトレードを行う「機関投資家」が主役なので、個人、しかも初心者が参入してもカモにされる可能性の方が高いからです。
一方で、投資信託なら全て安心というわけではなく、あくまで投資信託は「証券会社が儲けるための商品」なので、こちらでもカモにされないように注意が必要。リスクを抑えたいならパッシブファンド、インデックスファンドがおすすめです。
いずれにせよ、投資を行う時はリスクとリターンをしっかり考慮の上、実践してください。