投資の世界で頻繁に使われている空売り。
下げ相場で利益を狙うためだけでなく、リスクヘッジの手段としても活用されています。
今回は、資産運用初心者に向けて、空売りの意味やメリット・デメリットについてお伝えしていきます。
空売りとは
空売りとは、信用取引の一種であり、証券会社から株式を借りて売り建てる取引です。
売り建てたポジションを決済期日までに買い戻すことで株式を返却し、その差額で利益を狙う取引です。
例えばA株が1,000円の時に、証券会社からA株を100株借りて空売りしたとします。そしてA株が900円まで下落したところで100株市場から買い戻し、証券会社にA株100株を返します。手元に残るのは、差額の100円×100株の1万円です。
このように、基本的に空売りはある商品や相場が下落すると予測している場合に行うものです。
FXでの空売りも同じ仕組みです。為替相場が下がると予測した場合に、FX業者から外貨を借りて売り建てます。
その後下落した後に市場から買い戻し、外貨を業者へ返すことで下落分の利益を獲得できます。
FXの空売りと株の空売りの違い
FXでの空売りと株式投資の空売りの違いについて説明します。
基本的に仕組みは同じですが、取引にあたってかかるコストが異なります。
FXでは、新規の売りポジションが空売りに相当します。FXでの新規売りポジションを建てる際にかかる費用は次の通りです。
- スプレッド:FX業者が設定している買値と売値の差額のことです。この差額はトレーダーからすれば取引の都度発生するコストです。
- スワップポイント:通貨ペア間の金利調整額です。売買する通貨ペアによってスワップポイントは支払う場合もあれば受け取る場合もあります。
注意が必要なのはスワップポイントを支払う場合です。スワップポイントは日々支払い続けるため、ポジションを保有し続ければし続けるほどコストが膨らんでしまいます。
新規に売りポジションを建てる際は注意しましょう。
一方株式の空売りで発生するコストは次の通りです。
売買委託手数料 | 証券会社に株式売買を委託する際に発生する費用 |
---|---|
貸株料 | 証券会社から株を借りるために支払う費用 |
逆日歩 | 売り方が買い方に対して支払う費用。 |
管理費 | 新規建の約定日から1カ月経過の都度、建玉毎に対して発生する費用。 |
証券会社にもよりますが、多くの場合取引コストが高くなってしまうため、空売りは慎重に行うべきです。
※各証券会社によって空売りのコストが異なるため、事前に確認しましょう。
空売りのメリット
次に、空売りのメリットについてお伝えしていきます
下げ相場でも利益が狙える
空売りの最大のメリットとして、下げ相場でも利益が狙えることです。
価格には過熱感というものがあり、買われ過ぎと判断されると、価格は調整という形で適正価格まで下落していきます。
商品を買うことしかできない場合は、過熱感のある商品への投資は見送るしかありません。
しかし空売りはこのような価格の下落が予想される局面においても利益を追求できる投資方法であるため、日々多くの投資家から活用されています。
リスクヘッジに活用できる
空売りはリスクヘッジの手段として活用される場合も多いです。リスクヘッジとは、名前の通りリスクを避けることを言います。
例えば、トヨタ自動車株を買い、日経平均株価に連動するETFを空売りするとします。
日本株相場が全体的に下落した場合、トヨタ自動車株は下落した分だけ損失となりますが、ETFの空売りでは下落した分だけ利益を獲得できます。
このように、投資商品の中に空売りを組み入れることで、相場が下落したときの損失を限定することができるのです。
空売りのデメリット
次に、空売りのデメリットについてお伝えします。
価格が上昇すると損失が発生する
空売りは投資商品の価格が下落すると利益がでるため、予想に反して価格が上昇すると損失を被ってしまいます。
スワップポイントを支払う場合がある
FXでの空売り、つまり売りポジションを建てる場合において、スワップポイントを支払う場合があります。
SBI証券の2020年12月5日適用分のスワップポイントで確認してみましょう。

出典:SBI証券
スワップポイント表の「売」に記載されている値がマイナスの場合、スワップポイントを支払わないといけません。
一部通貨ペアでは売りポジションでもスワップポイントを受け取れますが、多くの通貨ペアではスワップポイントを支払うことになります。
運用する通貨ペアを選ぶ際には、事前にスワップポイントを確認するようにしましょう。
利益が限定される
FXでも株式投資でも、商品価格には理論上上限はありません。しかし下限は価格が0になるときです。
つまり空売りによる利益には上限があるので、大きな利益を狙いたい方には向いていないでしょう。
空売りするタイミング
次に、空売りするタイミングについてお伝えします。
相場が過熱気味のとき
空売りをするタイミングとして、相場が過熱している時が挙げられます。相場の過熱度合いは、次のテクニカル指標を活用して判断していきます。
RSI | 買われすぎか、売られすぎかを判断するための指標。数値は0~100で表され、一般的に70~80%以上で買われすぎ、20~30%以下で売られすぎと判断されます。 |
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ストキャスティクス | 相場の相対的な強弱の勢いを示す指標。一般的には20~30%以下で売られすぎ、70~80%以上で買われすぎと判断しますが、相場の勢いが強い場合には、20%や80%を突破することもあります。 |
サイコロジカルライン | 売買のタイミングを計るための指標。勝率(上昇率)が25%以下になると割安、75%以上になると割高であるといわれます。 |
他にも数多くの指標があるので、複数のテクニカル指標を活用して空売りのタイミングを見極めていきましょう。
経済指標の発表の直前
経済指標の発表の直前も空売りする投資家が増加します。
重要な経済指標が発表されると、相場が大きく乱高下します。そのため、投資家は相場の変動による資産価格を安定させるためにリスクヘッジを行います。
例えばAmazonとAppleの株式を保有しているとします。明日アメリカで重要な経済指標の発表が控えており、この結果次第で両銘柄の株価が大きく変動することが予想されます。
経済指標が好調であれば両銘柄も上昇するため問題はないのですが、結果が予想より悪化した場合は両銘柄も下落します。そこで両銘柄を採用しているNASDAQ指数に連動するETFを空売りすることで、経済指標が悪化してもETFで利益が出るので損失をカバーできます。
相場が大きく変動すると予想されるイベントの直前では、空売りが有効なリスクヘッジの手段になります。
経済が衰退していくと予想されるとき
経済が衰退していくと予想されるときも、空売りによって利益を狙うことができます。経済が衰退して相場が下降トレンドに入ると、空売りによって利益を狙いやすい環境になります。
景況感を表す経済指標が継続的に悪化していると、経済が衰退していくと判断できるので空売りを検討してみてもいいかもしれません。
なお、景況感を表す代表的な指標は次の通りです。
国内総生産(GDP) | 一国内において1年間で新しく生産・提供された財やサービス全ての金額の合計。経済成長率はこのGDPが1年間でどれくらい伸びたかを示す。同指数は経済活動の最も総合的な指標であり、経済状況を示している。 |
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鉄工業生産 | 製造業、鉱業部門における生産動向を表す。鉱工業の景気拡大・縮小の重要な指標であり、経済の転換点を早期に確認するために使用される。 |
空売りのQ&A
最後に、空売りに関するQ&Aを設けました。空売りに関する疑問が解決できれば幸いです。
空売りと同じ意味の言葉はありますか?
空売りは、信用売り、旗売りとも呼ばれています。
空売りする条件はありますか?
株式投資での空売りであれば委託保証金を預託する必要があります。FXでも同様に必要証拠金を預託する必要があります。
委託保証金も必要証拠金も必要とされる金額は証券会社やFX業者によって定められているので、事前に確認する必要があります。
スワップポイントを支払うタイミングはいつですか?
スワップポイントは、営業日をまたいでポジションを保有し続けた場合に支払うことになります。
営業日をまたいだかどうかの判断時点ですが、概ね翌日5:00〜7:00とするFX業者が多いです。
詳細はFX業者によって異なるので、事前に確認するようにしましょう。
まとめ
FXの空売りのメリット・デメリット、タイミングについてお伝えしました。
空売りの最大のメリットは下げ相場でも利益が狙える点です。上昇局面を待つことなく、利益を積み上げることができます。
しかし、価格上昇リスクやスワップポイントの支払いによる損失発生など、注意すべきポイントもあります。
とはいえ、相場が過熱気味の時や経済が衰退している時には、空売りは有効な投資手段です。
注意点をしっかり確認した上で、空売りを行うようにしましょう。