不動産投資は「稼ぐためにおこなう資産運用」のイメージが強いですが、実は節税効果が高い投資でもあります。不動産投資で得られる節税効果にはどのようなものがあるのか、本記事で解説していきます。
これから不動産投資を始めたい方や節税でお悩みの方はぜひご一読ください。
「不動産投資は節税効果がある」と言われる理由

不動産投資の節税効果が高いと言われる理由として、下記の点が挙げられます。
不動産投資の節税効果が高いと言われる理由
- 損益通算ができる
- 減価償却費、経費が利用できる
- 会社員の節税対策になり副業としても取り組みやすいため
それぞれ詳細を確認していきましょう。
損益通算ができる
損益通算とは、ある所得が赤字になってしまった際、計上された赤字を他の所得から差し引いて、全体の所得金額を低くする手法です。
例えば、年間の給与所得が800万円ある方が、不動産投資に取り組んで100万円の赤字を計上したとします。給与所得の800万円から、不動産所得の赤字分100万円を差し引けるので、合計所得金額は、「800万円-100万円=700万円」となります。
不動産投資をおこなう場合、初年度は物件購入時に様々な諸経費が発生します。また実際には支払っていないけれど、帳簿上は費用として計上できる「減価償却費」が生じるため、赤字になるケースが多いです。
つまり、本業で高額な所得を得ている方ほど、本業の所得から不動産投資で発生した赤字分を差し引けるので、節税効果が高まるのです。
さらに、損益通算を行っても全体の所得で赤字が生じた場合は、その赤字分を最長3年間繰り越せる「繰越控除」という制度も存在しています。
損益通算の注意点として、「損益通算できる所得が限定されている」点が挙げられます。損益通算できる所得は下記のとおりです。
※上場株式等の譲渡損失に関しては、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得とのみ損益通算ができます。
損益通算できる所得
- 不動産所得の赤字
- 事業所得の赤字
- 譲渡所得の赤字
- 山林所得の赤字
下記に挙げる所得に関しては、そもそも赤字が発生しない、もしくは赤字が発生したとしても損益通算ができません。
- 配当所得
- 雑所得
- 一時所得
- 給与所得
- 個人に対する資産の定額譲渡によって生じた損失
- 競走馬・別荘・書画・骨董品・貴金属等、生活に必要ない資産についての所得の計算上生じた損失
- 土地建物等の譲渡による分離課税の譲渡所得の金額の計算上生じた損失
- 非課税所得の金額の計算上生じた損失
- 株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失
- 先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失
※上場株式等の譲渡損失に関しては、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得とのみ損益通算ができます。
減価償却費などの経費が利用できる
不動産所得が赤字になるという事は、家賃収入から「何か」を引いてマイナスになったという事です。その「何か」とは、不動産投資にかかった経費と、減価償却の2つがあります。
経費には、固定資産税や借入金の利息(損益通算する場合は、土地の部分の利息は含みません)、税理士への報酬、損害保険の保険料、物件までの交通費、書籍、セミナー代などがあげられます。会社員であっても、交通費や勉強代を経費にできるのはうれしいのですが、当然もうけもそれだけ減ってしまいます。
ところが、もう一つの減価償却は実際にお金を使わなくても経費のように収入から引くことができる帳簿上の経費のようなものです。
減価償却とは、長期的に使用する固定資産の費用を時間の経過に沿って分割して経費計上する会計手法(会計処理)の方法です。固定資産を購入して一括で経費計上してしまうと、購入した年度だけ利益が圧迫されてしまいます。固定資産の価値は徐々に薄れていくので、一括で経費計上してしまうと価値の減少を会計に反映させることができません。
そのため、減価償却費という勘定科目を用いて、仮想的に価値の減耗を反映し、年度ごとに経費として計上することで、固定資産の価値減少分を反映しています。
減価償却費の算出方法は、「定率法」「定額法」の2種類が存在しました。しかし税制改正によって、平成19年4月1日以降に取得した建物(躯体)、平成28年4月1日以後取得の建物附属設備(設備類)は、定額法になっています。現在は税制改正により算出方法が「定額法」のみに一本化されたのです。それでは、定額法とはどのような算出方法なのか確認してみましょう。
①定額法
定額法は耐用年数の期間中、毎年同じ金額で減価償却費を算出する方法になります。計算式は下記のとおりです。減価償却費=取得価格(取得価額)×定額法償却率
例えば、1000万円の資産を10年で償却する場合は、毎年100万円ずつ経費を計上していきます。
下記、国税庁が定めている建物の耐用年数になります。
耐用年数 | |
---|---|
・鉄骨鉄筋コンクリート造 ・鉄筋コンクリート造 | 50年 |
店舗 | |
住宅 | |
飲食店舗 | |
車庫 | |
木造・合成樹脂造 | 24年 |
店舗・住宅 | |
飲食店 | |
車庫 |
耐用年数が短いほど、年度ごとの減価償却費は高くなります。
短期間で、大きな節税効果を得たい方は、耐用年数が短い建物に投資するのがおすすめです。
また、建物に付属する設備に関しても減価償却を適用させることが可能です。代表的な付属設備の耐用年数を見てみましょう。
構造・用途 | 詳細 | 耐用年数 |
---|---|---|
アーケード・日よけ設備 | 主として金属製のもの | 15年 |
その他のもの | 8年 | |
電気設備(照明設備を含む) | 蓄電池電源設備 | 6年 |
その他のもの | 15年 | |
給排水・衛生設備、ガス設備 | – | 15年 |
中古物件はすでに耐用年数の一部が経過しているものが大半ですので、耐用年数を算出し直す必要があります。中古物件の耐用年数の計算式は下記のとおりです。中古物件の耐用年数=(新築時の耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
例えば、築30年の鉄筋コンクリート製の中古マンションを購入した場合、耐用年数は下記のように算出できます。(47-30)+30×0.2=23
中古物件の築年数がすでに耐用年数を経過している場合は、新築時の耐用年数×0.2
の計算式で耐用年数を算出します。
会社員の節税手法や副業として魅力的なため
不動産投資で損益通算や減価償却の恩恵を受け取れるのは、主に正社員として雇用されている会社員の方です。理由は大きく3つに分けられます。
- ・損益通算の恩恵が受けられる
- ・給与所得が安定していれば不動産投資ローンが組みやすい
- ・日中の仕事に支障をきたさない
そもそも、不動産投資と損益通算できるのは「本業の所得が不動産所得以外の場合」に限られます。大家さんのように不動産の家賃収入が所得のメインであり、本業として取り組んでいる場合は、不動産所得以外の所得がありませんので損益通算の恩恵を受けられません。
会社員が不動産投資をはじめる場合、正規雇用でリストラのリスクが少なく、給与所得が高額な方は社会的信用が高く、銀行のローン審査に通りやすいです。銀行側は「安定した収入がある」方に対して、高い評価をつけます。
収入額が高くても、月や年度によって収入にバラつきがある個人事業主に対しては、審査基準が厳しくなる傾向にあるため、会社員は不動産投資に向いています。
加えて、不動産投資は日中の仕事に支障をきたさない点もメリットです。不動産投資は、中長期の投資が基本となります。そのため、賃借人の募集や家賃の集金などの賃貸管理を他の人に任せれば、株式投資などのように毎日何か分析をしたりする手間もありません。
これらの理由から、不動産投資は高所得者の会社員にとって節税効果が高い投資になります。法人自体が節税目的で不動産の売買をおこなうケースも増えてきていますね。
仕組みや税金の種類を理解し、節税効果を最大化する

不動産投資で節税効果を狙うためには、不動産投資で生じる税金や課税のしくみを正確に理解しておきましょう。不動産会社や税理士に任せるケースも多くありますが、投資という性質上、自身で税金・課税の仕組みを把握すれば、より効果的な投資先を選べるようになります。
この章では、不動産投資をおこなう上で押さえておくべき税金・課税のしくみを解説していきます。
不動産投資で生じる税金や課税のしくみを知る
不動産投資で生じる税金として下記のものが挙げられます。
不動産投資で生じる税金
- 印紙税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 固定資産税
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
それぞれ詳細を確認していきましょう。
印紙税
不動産の売買契約書には印紙を貼り付ける必要があります。
このように印紙を利用(購入)する際に生じる税金が印紙税です。印紙税の税額は取得した不動産の価格によって変わってきます。
※2014年4月1日から2021年3月31日までに作成された売買契約書に利用する印紙税額に関しては、下記の通りです。
不動産取得金額 | 印紙税額 |
---|---|
10万円超~50万円以下 | 400円(軽減措置期間:200円) |
50万円超~100万円以下 | 1,000円(軽減措置期間:500円) |
100万円超~500万円以下 | 2,000円(軽減措置期間:1,000円) |
500万円超~1千万円以下 | 1万円(軽減措置期間:5千円) |
1千万円超~5千万円以下 | 2万円(軽減措置期間:1万円) |
5千万円超~1億円以下 | 6万円(軽減措置期間:3万円) |
1億円超~5億円以下 | 10万円(軽減措置期間:6万円) |
5億円超~10億円以下 | 20万円(軽減措置期間:16万円) |
10億円超~50億円以下 | 40万円(軽減措置期間:32万円) |
50億円超 | 60万円(軽減措置期間:48万円) |
登録免許税
不動産を取得したあとには、所有権を登記する必要があります。この際に課される税金を「登録免許税」と呼びます。登記では物件の詳細情報、所有者の個人情報などを記載します。登記により不動産の権利関係が明確になるので、不動産を取得したあとのトラブルを未然に防ぐことが可能です。
登録免許税は登記の種類によって税率が異なります。例えば土地の所有移転登記は2.0%、住宅用家屋を新築した際の所有権保存登記は0.4%、中古住宅の所有権移転登記は2.0%となります。
不動産取得税
不動産取得税は不動産を売買で取得する際に生じる税金になります。売買ではなく、親族から相続で不動産を受け取ると不動産取得税は発生しません。
固定資産税
固定資産税とは、不動産を所得している個人・法人に対して課される税金です。建物・土地の片方のみを所有している場合でも固定資産税が生じてきます。
固定資産税は、各年度の1月1日時点で不動産を所有している個人・法人に課されるので、1月1日に所有していなければその年の固定資産税は生じません。
固定資産税は地方税のため、地域によって税率が異なることもあります。固定資産税の計算方法は下記のとおりです。
固定資産税=課税標準(固定資産税評価額)×標準税率1.4%
ちなみに、標準税率は1.4%となっており、この数値から大きく乖離した地域はほとんどありませんが、事前に確認しておきましょう。
所得税
所得税は所得に対して課される税金です。所得税は給与に対して課されるイメージが強いですが、不動産投資で得られる家賃収入にも所得税が課されます。これは家賃収入が「不動産所得」として扱われるためです。不動産所得は家賃収入の総額から各種経費を引いて算出します。
不動産所得=不動産収入(総収入金額)ー必要経費
総収入金額には、家賃収入のほかに敷金・礼金、共益費などの収入も含みます。
必要経費は、固定資産税や損害保険料、減価償却費、修繕費などの不動産収入を得るうえで発生した経費です。
住民税
住民税は所得金額に応じて金額が変わってきます。給与所得を得ている会社員が不動産所得を得て利益を得ると、翌年度から住民税の額が増えるので注意が必要です。
反対に、不動産所得で損失が発生した際には、給与所得との損益通算をおこない、住民税額を低くできます。
個人事業税
個人事業税は都道府県が定めた法定業種を行って所得を得ると発生する税金です。事業規模が大きくなると個人事業税が必要になってきますが、地方によって事業規模か否かの基準は異なってきます。まずは不動産投資が事業規模に達しているか確認するようにしましょう。
不動産賃貸業(不動産貸付業)は法定業種の第1種事業に含まれるため、個人事業税が生じてきます。個人事業税の税率は「5%」です。また、個人事業税の課税所得は「所得金額-290万円」で計算されます(事業税の控除額”290万円”を所得金額から差し引きます)。
つまり、年間の不動産所得額が290万円を超えなければ個人事業税は発生しません。
都市計画税
都市計画税は市都市計画法の市街化区域内にある不動産が対象となっているので、すべての不動産に対して都市計画税が課されるわけではありません。自身が保有する不動産が都市計画税の課税対象になっているかは、役所や町役場、地域の不動産会社などで確認できます。
都市計画税=課税標準(固定資産税評価額)×税減税率0.3%
また、都市計画税は制限税率ですので、税率に上限が設けられています。どの自治体に住んでいても、都市計画税の税率は0.3%を超えることはありません。
「損益通算」と「減価償却費」を活用した節税シミュレーション
それでは実際に「損益通算」と「減価償却費」を活用した節税シミュレーションを見ていきましょう。モデルケースとして「年収1,000万円」の方が「中古マンション」を購入し、諸経費や、減価償却などを家賃収入から引いて、60万円マイナスになった場合を見ていきます。
会社員 | 会社員+不動産投資 | |
---|---|---|
給与所得(給与所得控除後) | 805万円 | 805万円 |
不動産所得 | – | △60万円 |
所得控除 | △168万円 | △168万円 |
課税される所得 | 637万円 | 577万円 |
所得税 | 84.65万円 | 72.65万円 |
不動産投資を行った結果、所得税は「12万円(84.65万円-72.65万円)」の節税に成功しました。不動産投資は、資産の確保と節税ができるのが特徴といえるでしょう。
不動産投資の節税の注意点を徹底解説

不動産投資で節税に取り組む際は、下記の点に注意するようにしてください。
- 減価償却が行えるのは建物のみ
- 節税だけを目的に不動産投資に取り組むことは避ける
それぞれ詳しく解説していきます。
減価償却が行えるのは建物のみ
不動産投資で減価償却が行えるのは「建物のみ」になります。減価償却は「時の経過により価値が徐々に減っていく資産」に対してのみ適用されます。マンションや一軒家などの建物は時の経過により設備が劣化していきますので、減価償却が適用されます。
これに対して、土地は経年によって価値が減っていくわけではないため、減価償却は適用されません。
節税だけを目的に不動産投資に取り組むことは避ける
節税のみを目的とした不動産投資は、出口戦略が抜け落ちていることが多いです。最終的に不動産を売却するのか、それとも家賃収入を得て不動産所得を黒字にしていくのか、事前に考えておく必要があります。
出口戦略が抜け落ちていると、最終的にデッドクロスに陥りやすいです。デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回っている状態です。デッドクロスの状態になると、帳簿上は利益が出ているのに、利益に対して課される所得税額が増加してしまい、資金繰りが悪化してしまいます。
リスクを売却時や物件の譲渡時に先送りしないよう、事前に入念なシミュレーションをおこなうことが肝要です。不動産投資に取り組むなかで、そのメリットの一つとして節税効果が得られる、と考えましょう。
不動産投資で節税効果と不労所得を手に入れる

不動産投資は株式投資やFXなどのような短期売買ではなく、長期的な資産形成に向いています。家賃は、株価のように急騰することもないかわりに、一瞬で暴落することも考えにくいので、一度購入すると、パソコンを毎日見続けるような必要がありません。購入した時から、ある程度修繕費や空室率も予測できますので、資金繰りの準備をしておくことができます。
また不動産投資は、会社員ができる副業でもあるのです。さらに、結果的には節税になるケースもあります。
安定した給与所得があれば金融機関のローン審査も通りやすいので、現金が心許なくてもレバレッジを効かせながら不動産投資を行えます。本記事で紹介・解説した内容を参考にして、不動産投資を具体的に検討してみましょう。